大学受験を控えた美保が、真冬の夜に感動的なウインドサーフィンをする青年と出会うところから物語は始まります。
その青年に、なぜこんな時間に海にいるのかを聞いたところ「人に言ったら笑われるかもしれない」と前置きをしながらも、教えてくれました。

いわく、南半球のある島に赴任した人と約束したとのこと。
あちらではちょうど今は真夏で真昼なので、お互いがまったく違う世界にいても同じような気持ちでいようと、同じ時間に波に乗ることにしたそうです。

なんてロマンチックなんでしょう！ 子どもっぽいけれど、そういうのが好きという青年に、美保は自分も好きだと答えます。
しかし翌日はあいにくの雪。そしてそれ以降彼を海で見かけることがなくなりました。

彼が約束をした相手が誰なのかは知らない美保ですが、ずっとあの美しいジャンプが忘れられません。
好きになったわけではないのに……いつの間にか彼のジャンプが美保の目指すウインドサーフィンになっていました。
好きなことをする人や、ささやかな約束を大切にする人はとても魅力的ですね。

その後、なんと彼は美保と同じアルバイト先に新しく入ってきますが、美保からの反応をスルーして、まるで初対面のように振る舞います。
美保も人違いだったのかと思い始めますが……？

この表題作『波乗りの詩─彼女が風に吹かれた場合─』以外にも合計4本の短編が収録されていますが、どれもお互いが素直になれずに溝ができてしまう構図です。
若い男女の意地っ張りは厄介ですが、素直な気持ちを言えないジレンマにもヤキモキさせられます。

女の子が強気で健気なのがとても印象的なこの短編集。
そして男性は逆に恋に臆病で、どうすればいいのかわからない。
精神年齢が女性のほうが上、というのを見せつけられるような気がします。

絵柄は80年代のタッチですが、それが強気な女の子をより魅力的にしているのも確か。
最近のキラキラした少女漫画にマンネリを覚えているなら、断然おすすめしたい作品です。
恋愛に素直になれないのは、ミレニアル世代でも同じでしょうね。