自らの腕一本で勝負する美容師は、キャリアが重要視される職業です。時間をかけて経験を積み上げる中で「年収アップ」をひとつの目標にしている人も少なくありません。なぜなら、美容師は腕を磨けば磨くほど固定客を獲得できるため、収入が上がれば自分のセンスや技術が認められている証にもなるからです。そうでなくとも自分の給料が高いのか低いのか、どの程度の給料が平均なのかは気になるもの。この記事では美容師の年収の相場をご紹介します。
理美容師の平均年収は約300万円
厚生労働省が行った2019年の「賃金構造基本統計調査」によると、規模が10人以上の企業に勤める理容・美容師の平均年齢は31才、平均勤続年数が6.5年で、平均年収は約300万円です。
ただしこれらの数字はあくまでも業界全体の平均値であり、単純に比較して判断することはできません。年収に関しては企業規模やキャリア、年齢によっても大きく変わるからです。
美容室を経営する企業の中には年商数百億を売り上げる大手も存在しますが、大半は小規模または中小企業です。また、それ以上にキャリアや年齢による影響が大きく、勤続年数に応じてステップアップし、知識やスキルを身に付けることや多くの固定客をつかむことが求められます。
キャリア別美容師の年収の相場
美容師の年収に何よりも深く関わってくるのが「キャリア」です。まずはキャリア別の平均年収をご紹介します。
アシスタントは平均200万円弱
アシスタントはまだ半人前の見習い期間であり、平均年収も200万円弱とやや低めです。
美容師のキャリアは「アシスタント」からスタートします。
美容学校を卒業し、美容師国家試験に合格すれば美容師免許をとれますが、いきなり店に出て顧客の髪を切ることはできません。アシスタントとして接客や基本的なノウハウ、店舗のシステムを学び、スタイリストのサポートをしつつ、シャンプーやブローなどの技術を磨きます。
この収入の中から道具やトレーニング用ウィッグを購入し、スタイリストデビューに向けてトレーニングを積むのが一般的。そのため、アシスタント時代はなかなか貯金にまで手が回らないケースが少なくありません。
スタイリストは平均350万円
経験を積んでスキルアップし、さまざまなスタイルの顧客に対応できるようになれば「スタイリスト」となり、年収300万円を超える人もいます。
アシスタントを卒業し晴れてスタイリストになると給料も上がります。ただしスタイリストといっても幅が広く、ほとんどの企業は社内でランク分けをしています。
たとえばアシスタントから昇格したばかりで基本的なスタイルのみ提供できるスタッフは「Jr.スタイリスト」とみなし、カットを担当するものの最終的なチェックはスタイリストが行うシステムも珍しくありません。Jr.スタイリストの給料は、アシスタントより少し高い程度です。
指名や固定客が増えて「トップスタイリスト」になると、500万円を超える場合も。さらに社内でチーフや店長など責任ある立場になると、役職手当がつくケースが一般的です。
経営者、オーナーは1,000万円以上の収入も可能
経営者として自分の店を持ち、スタッフを雇用してビジネスを拡大させれば年収1,000万円も夢ではありません。
ただしこの場合は、スタイリストとしての腕だけでなく経営者としての素質も求められます。店舗をいくつも構えてうまく軌道に乗せるには、的確な経営戦略を立てる能力やスタッフをまとめる人望、店舗プロデュース力なども問われるでしょう。
独立し経営者になれば企業に雇われるよりも高額な収入が見込めますが、必ず儲かるわけではありません。どのくらいの売上や収入を得られるかは経営手腕に大きく左右されます。
美容師の給料は歩合制や指名料でさらに稼げる場合も
美容師の給料に歩合制を取り入れている企業は少なくありません。歩合制とは、成果や売上高に応じて給料を支払う制度で、自分が担当した施術の売上や指名料の一部が給料に還元されます。歩合給の割合や、歩合給がつくための条件(ノルマ)は企業によってまちまちです。施術料金も美容室の規模やグレードによって異なるため、高級美容室だとより稼げるケースもあります。
そのほか、美容室で販売しているシャンプーやトリートメントを販売すると、一般的には売上に応じたインセンティブが給料にプラスされます。固定客を獲得したり美容室の商品を買ってもらうには、技術が確かであるのはもちろんのこと、カウンセリングや接客の質、コミュニケーション能力を高めることも大切です。
年代別の平均年収
国税庁による2019年の「民間給与実態統計調査」から、美容師を含むサービス業の年代別平均年収を紹介します。
- 20歳未満 150.4万円
- 20代前半 234.9万円
- 20代後半 323.0万円
- 30代前半 355.7万円
- 30代後半 386.6万円
- 40代前半 413.1万円
- 40代後半 422.3万円
- 50代前半 430.0万円
- 50代後半 418.4万円
- 60代前半 351.3万円
- 60代後半 235.7万円
- 70代以上 203.5万円
このデータから、50代前半をピークに平均年収が下降していることがわかります。これは他の業種でも見られる傾向ですが、美容師の場合は流行をキャッチしつつ時代の流れに合わせて新しい技術を取り入れることも大切で、年齢要素が重視される一面があります。
美容師の年収は地域差がある
美容師の給料は、年代やキャリアのほか地域によっても異なります。
全国でもっとも高額な東京都・神奈川県・千葉県といった関東地方は、人口が多く、最低賃金も全国平均より高めです。このようにさまざまな要因が絡み、高くなっている可能性があります。
高収入を目指すなら上に述べた地域の美容室に就職する方法もひとつの手段ですが、関東圏は家賃も高めで、余裕のある暮らしや貯金ができるとは限りません。
関東地方の次に高いのは愛知県、静岡県などの東海地方です。
独立すると年収は上がる?
多くの美容師が収入を上げる方法として考えるのが「独立」です。独立と年収との関係を解説します。
年収の増加が見込める一方、リスクもある
美容師の独立にはいくつかの方法があります。
- 物件を借りるか建てて自分の店舗を持つ
- 店舗を持たず出張・訪問専門の美容師になる
- フリーランスの美容師になる
独立して開業すれば施術の価格やサービス内容、営業時間などを自由に設定できます。1人美容室や少人数の美容室なら開業資金もさほどかからず、開業までのハードルも高くありません。
軌道に乗って常に予約で埋まっているような人気美容室になれば、企業に勤めるよりもはるかに高い年収を得られます。
ただし、宣伝や集客も自分自身で行わなければならず、ケガや病気で働けなくなるとそのぶん収入が落ちるというデメリットもあります。そのため、独立すれば収入が増えるとは断言できません。
店舗経営は社会情勢に左右される
美容室の経営状況は景気の波や社会情勢に左右されるもの。景気が悪化すれば客単価が下がったり、来店サイクルが延びたりします。
実際のところ、東京商工リサーチの「2019年『理容業・美容業倒産動向』調査」によると2019年には美容業で105件の倒産があり、一定数の美容室が姿を消しています。
とはいえ、美容室のニーズがゼロになることはありません。
閉店する店も確かにありますが、その一方で新しくオープンする美容室も多く、全体的には増加傾向です。
そもそも社会情勢の影響はすべての美容室が受けるものですから、ピンチをいかに自分の力で乗り越えるかが経営者の腕にかかっています。
美容師の年収とキャリアは比例する
美容師の年収はキャリアに大きく左右されます。確かな技術を身に付けるのはもちろんのこと、心地良い接客やカウンセリングを学び実践し、熱心な固定客がつけば、歩合給の大幅アップが見込めます。
より高収入を目指すなら、ある程度のリスクはありますが思い切って独立を目指すのもひとつの方法です。