美容業界は髪型やファッショントレンドの変化に応じて、お客様が求めるサービス内容も多様に変化します。ライフスタイルに合わせて働く、あるいは特定の店舗に所属せずフリーで活躍するというように、美容師の働き方も多様化しています。美容室の店舗数や美容師の数も年々増加しており、店舗間の競争も激しさを増す傾向です。
この記事では美容業界の動向や美容室を利用するお客様の考え方、そして美容室が現に直面している課題について解説します。
美容業界の近年の動向と変化
新型コロナウイルス感染症の影響で閉店を余儀なくされる美容室がある一方、新規出店する美容室も少なくありません。顧客ニーズに合わせて、店舗の運営方法の幅も広がっています。美容業界の近況と最新の動向について確認しておきましょう。
美容業界の市場は堅調な推移
1.5兆円市場と言われる美容業界、2019年10月の消費税増税や2020年初頭からの新型コロナウイルス感染症の影響を受けながらも、年間売上高は堅調な推移を見せています。一方、理美容サービスへの年間支出額は過去5年間で最低水準です。
理美容サービス | カット代 | パーマネント代 | 他の理美容代 | |
2016年 | 33,861 | 5,731 | 4,100 | 17,210 |
2017年 | 33,552 | 5,572 | 3,677 | 17,746 |
2018年 | 32,683 | 5,520 | 3,423 | 17,318 |
2019年 | 34,128 | 5,592 | 3,178 | 18,949 |
2020年 | 31,330 | 5,448 | 2,766 | 17,278 |
単位:円(出典:総務省統計局「家計調査年報」)
カットやパーマ代への支出額が年々減少しており、低価格帯の美容室を筆頭とした価格競争の影響がうかがえます。セットやヘアカラーなどの「他の理美容代」への支出額は、増税前の駆け込み需要の影響を除いて、大きな変化が見られません。
客単価は4年連続で増えており、2020年上期の客単価は女性が6,846円、男性が4,241円です(出典:株式会社リクルートライフスタイル ホットペッパービューティーアカデミー『2020年上期美容センサス』)。
美容室と美容師の数が増加
理容室の数が毎年約2,000軒ずつ減り続ける中、美容室は年間3,000~4,000軒ずつ増えています。美容室を利用する男性が増えていることが、理容室減少の一因のようです。
美容室の数 | 理容室の数 | |
2014年度 | 237,525ヶ所 | 126,546ヶ所 |
2015年度 | 240,299ヶ所 | 124,584ヶ所 |
2016年度 | 243,360ヶ所 | 122,539ヶ所 |
2017年度 | 247,578ヶ所 | 120,965ヶ所 |
2018年度 | 251,140ヶ所 | 119,053ヶ所 |
(出典:厚生労働省「衛生行政報告例」)
店舗数以上に美容師の増え方は大きく、2016年以降は毎年1万人ペースで増えています。また、美容師の新規免許登録者数は毎年約18,000人~19,000人で、美容師の増加数の約2倍です。独立開業する美容師が一定数存在する反面、離職率の高い状況が続いていることが分かります。
従業美容師の数 | 新規免許登録者数 | |
2014年度 | 496,697人 | 18,428人 |
2015年度 | 504,698人 | 19,005人 |
2016年度 | 509,279人 | 18,645人 |
2017年度 | 523,543人 | 19,402人 |
2018年度 | 533,814人 | 17,872人 |
※従業美容師の数は、厚生労働省「衛生行政報告例」より引用
※新規免許登録者数は、公益財団法人 理容師美容師試験研修センターより引用
フリーランス美容師の増加
近年、特定の美容室に雇用されずに働く美容師が増加しており、2017年秋の時点では8万人以上の美容師がフリーランスとして働いているとされています。美容師が施術メニューや料金を自由に決め、顧客と深い信頼関係を築けるのが特徴です。フリーランス美容師向けにセット面や美容室の設備を貸し出す「シェアサロン」の展開が進んでおり、比較的低リスクで独立開業できる環境も整いつつあります。なお、美容室と業務委託契約を結んでライフスタイルに合わせた働き方を選ぶ美容師もいます。
サービスや運営方法の多様化
パソコンやスマホの普及に伴い、美容室の集客方法も予約サイト・店舗情報検索サイトを活用した方法に変化しつつあります。SNSによる情報発信も盛んです。お客様から美容師の指名や口コミの発信も手軽にできる環境も整っており、美容室の経営戦略にインターネットの活用が求められる時代になっています。
また、サービスを受けられる場所も多様化する傾向です。高齢者や美容室への来店が難しい人を対象に、自宅や介護福祉施設・医療機関で施術を行う「訪問美容サービス」も注目されています。お客様の利便性を考えて、自宅や勤務先・出先に近いシェアサロンを提案するフリーランスの美容師もいるようです。
美容室での施術内容の変化
美容室での施術内容はカット・パーマをはじめ、ヘアカラー・ネイル・まつげケアなど多岐にわたりますが、流行やテレビ・映画などの影響に応じて変化しています。中でもパーマは、2005年度をピークに利用率の低下が顕著です。ロングヘアの流行からミディアム・ショートカットへの流行の変遷が大きな要因だといわれています。いわゆる「ステイホーム」に伴うヘアケア意識の高まりから、トリートメント・ヘッドスパも注目の的です。
美容業界における消費者動向
美容室の予約サイトや検索・口コミサイトを使って、利用する美容室を比較するお客様も増えています。比較検討の材料として美容師の技術はもちろん、自宅・職場からの近さも重要視される傾向です。店舗の課題を明確にするためにも、美容業界における消費者動向についても十分に把握しておきましょう。
美容室を利用する割合
女性の約9割が年1回以上美容室を利用しており、20代~30代では利用割合がより高くなっています。季節の変化やイベントに合わせて利用する傾向があるようです。ヘアカラーのメンテナンスやトリートメントで、1~2ヶ月に1回利用する女性もいます。
最近では男性の美容室利用者も増えていて、3割強の男性が年1回美容室を利用しています。女性より高頻度で美容室を利用する傾向があり、髪が伸びたタイミングでの利用がうかがえます。ちなみに髪の伸びる速さは1ヶ月で約1~1.5cm、1年では約12~18cmが平均的です。20代~30代の男性の約半数が美容室を利用しており、SNSや各種サイトを通じた美容意識の高まりが増加要因の一つといわれています。
美容室を選ぶ理由
女性・男性とも美容室選びの基準として、自宅や職場からの通いやすさを最も重要視しています。次に多い理由が担当者の技術・提案で、ネットや知人・友人の情報を通じて美容室の選択につながる傾向です。ネット予約が可能な美容室も、美容室の空き状況をその場で確認し、当日でも予約できる利便性が好評です。初めて行く美容室を選ぶ際は、これらの内容に加えて料金の手頃さも条件に加わります。
反対に、料金体系がわかりにくかったり、スタッフや客層が自分に合わないと感じたりした場合にはリピートにつながらないでしょう。口コミや評判が良くなければ、行きづらい美容室だという印象が高くなりがちです。
美容室を探す時に使う情報源
美容室を探すときに使う情報源は検索予約サイトや、美容室公式サイトが主流とされています。街中で見つけた美容室の情報をネットで調べてから、気に入った美容室を予約する人も多いです。InstagramなどのSNSを見ているうちに美容室のアカウントを発見して新規予約につながるケースもあるでしょう。友人・知人との会話をきっかけに美容室を知る顧客も3割近くで、ネット情報に匹敵します。
美容業界の今後の課題や問題点
サービスメニューの多様化や美容室の店舗増など、美容室の経営環境は刻々と変化しています。美容師の総数は年々増えているものの、離職率が高止まりしているため美容師不足が慢性化している実態もあります。美容業界が抱える問題点や、美容室オーナーとして克服すべき課題はどのようなものでしょうか。
美容室の競争の激化
美容室の店舗数は年間3,000~4,000軒ずつ増えており、美容に関する意識の高まりや顧客ニーズの多様化に伴い、美容業界の市場も緩やかな拡大を続けています。顧客にとっては、美容室の選択肢が広がるメリットが生まれる反面、美容室にとっては顧客獲得の難易度が高くなります。
日本の総人口は毎年減少を続けているため、美容業界の競争は今後激しさを増すでしょう。ただし、男女とも若年層を中心に美に対する意識が高まっており、激しい競争に打ち克つには接客力・技術力の向上が必要不可欠です。
経営の二極化
美容室の経営規模は、従業者数3名以下の小規模店が全体の9割近くを占めています。一方、法人経営の美容室では多店舗展開を展開しており、経営規模の二極化が顕著です。立地条件のよい小規模店を大規模店が買収する「M&A」事例も増え始めています。
立地条件による二極化が進んでいるのも、美容業界の特徴です。住宅街に立地する美容室では単店舗による地域密着経営が定着する傾向で、中高年の経営者も少なくありません。後継者問題も気になるところです。また、商業地域やショッピングモールなど商業施設内には、法人経営の美容室が多く出店しています。なお、シェアサロンの立地は駅近くや繁華街の立地が多い傾向です。
美容師の離職率の高さ
美容師免許の新規登録者の半数程度とはいえ、美容師の数は毎年増加しています。一方、入社後1年目での離職率が50%前後と高く、人手不足が続く傾向です。美容室の75%が、従業員を募集しても応募がない・少ないと回答しています(出典:日本政策公庫『生活衛生関係営業の雇用動向に関する調査結果(2020年2月発表) 』)。
入社後の1年を乗り越えたとしても、アシスタントからスタイリストデビューまで3年程度かかります。入社3年後の離職率が70%にのぼると言われているため、10名入社してもスタイリストになれるのは3名前後なのが現状です。そのため、スタイリストの実稼働数も減っているのです。
まとめ
美容室の年間売上高は堅調に推移しているものの、店舗間の競争が激化しているのが近年の美容業界の動向です。特定の店舗を構えずシェアサロンを拠点に活躍するフリーランスの美容師や、業務委託契約のもとで自由な働き方を実現する美容師も増えています。
サービスの多様化に伴い客単価が上がっているため、最新のトレンドを押さえた施術・サービスの提供が、お客様の満足を得て競争に打ち克つ秘訣です。インターネットを上手に活用し、効果的な集客につなげましょう。