美容室の開業を目指している美容師や経営者なら、融資を検討している人がほとんどではないでしょうか。しかし初めての開業の場合、どれくらい費用がかかるのか、融資はどこから受けるべきか、自分でも借りられるのかなど多くの悩みがあるものです。
そこでこの記事では、美容室の開業資金相場を紹介したうえで、どこから融資を受けられるのか、融資を受けるまでの流れ、融資を受けやすくするためのポイントなどを解説します。
美容室の開業資金の相場は約1,000万円

日本政策金融公庫が公表している「サロン開設費用の内訳」によると、美容室の開業資金の相場は以下のように約1,000万円という調査結果になっています。
- 美容室開業費用940万円:実際にかかった費用
- 美容室開業資金の調達額は1,030万円:準備した資金
※いずれも不動産を購入した企業は除く
開業のために準備した資金よりも、開業で実際にかかった費用のほうが100万円程度低くなっています。この調査結果から、開業資金は、開業で実際にかかる費用よりも多く準備することが一般的です。
と言うのも、開業後すぐに経営が安定するわけではありません。運転資金や生活費の確保も必要なため、多めの開業資金の確保が大切です。

自己資金が足りていても融資は借りておくべし
開業費用が自己資金で足りそうな場合、融資を受けなくても大丈夫と考えがちですが、自己資金が足りていても融資は受けるべきです。理由は以下などが挙げられます。
- 開業直後は資金がショートするリスクがある
開業直後、すぐに計画どおりの売上を達成するのは簡単ではありません。十分な自己資金で開業できても、売上が少ない状態では手元の資金は減っていくばかり。もし資金がなくなれば、営業がストップします。従って売上が少なくても、3カ月程度は運転資金や生活費に困らない資金の確保が必要です。 - 開業時は融資を受けやすいタイミング
金融機関は融資の際、返済能力の有無も審査の対象にしているため、決済書や直近数カ月の収支を確認します。そのため開業後、資金難に陥った状態では融資を受けられません。開業前後なら、自己資金や信用情報、創業計画書などで融資審査されるため、融資を受けやすいタイミングといえます。
自己資金がぎりぎりなら、3カ月はしのげる資金を確保し、資金のショートを防ぐために融資を受けておくべきです。
美容室開業で融資が必要! 他の経営者はどこで借りている?

融資はあくまでも借り入れ金なので、いずれは返済が必要です。金融機関などから融資を受ける際は、債務者に返済能力があるかが融資の審査で最も重要です。
そのため、いくら借りるかも大切ですが、どのように返済するのかもポイントになります。また、金利や期間、担保や保証人の有無など融資条件の確認も必要です。
ここでは、開業前後に融資を受けられるおもな借り入れ先や方法として、以下について解説します。
- 日本政策金融公庫
- 制度融資や自治体の中小企業融資
- 親類など
- 開業後に融資を受けるケース
なお、開業時には事業者としての信用情報や取引実績などがないため、地元の金融機関からは融資を受けられる可能性はないと考えておきましょう。
日本政策金融公庫
日本政府が運営する金融公庫なので、低金利で融資を受けられるのが特徴です。美容室開業資金の借り入れ先として、もっとも一般的な調達先になっています。
日本政策金融公庫では、さまざまな種類の融資を行っていますが、美容室開業で利用できるおもな融資制度は以下3種類です。
- 新規開業資金
- 生活衛生新企業育成資金
- 女性、若者/シニア起業家支援資金
基本的に担保や保証人は必要ありませんが、有無によって条件や利率が異なるので注意しましょう。日本政策金融公庫のHPによると2021年2月時点での基準利率は、有担保で1.11~2.20%、無担保で2.06~2.55% になっていますが、融資制度や条件によってさらに低い特別利率が適用されます。
このように低金利で融資を受けられることは新規開業時にとってメリットですが、日本政策金融公庫の融資審査に落ちた場合、再申請まで1年ほど間隔を空けなければならない点に注意しましょう。
その他の制度
その他の資金調達として、制度融資を利用する方法もあります。制度融資とは、各地方自治体、各都道府県の信用保証協会、民間金融機関、の連携によって行われる融資です。
信用保証協会は融資を受ける人の保証人のような役割をする公的機関で、事業者のスムーズな借り入れを可能にするため各都道府県に設置されています。利用するには保証料の支払いが必要です。
しかし、制度融資では自治体が保証料の一部を負担してくれるなど、事業者が融資を受けやすいさまざまな環境づくりがされています。開業前後の美容室でも、以下のように多くのメリットがある制度です。
- 保証つきのため金融機関で審査落ちした際でも融資を受けられる可能性がある
- 保証により融資基準のハードルが下がる
- 無担保融資や長期借り入れが可能になるケースもある
親類から借りる・もらう
開業資金を親族から借りたりもらったりする方法もあります。しかし、いくら身内であっても、提供方法や金額によって手続きなどが必要なので注意しましょう。
- 親族から開業資金を贈与提供してもらう
親族から開業資金を贈与してもらう際は、一定金額以上の場合、贈与税の申告と納税が必要です。また、贈与契約書の作成もします。 - 親族から開業資金を借り入れる
親族から開業資金を借り入れる際は、贈与と区分するため金銭消費貸借契約書の作成と定期的な返済が必要です。
開業後の融資は新創業融資制度を利用しよう
開業後にも融資が必要になるケースもあります。日本政策金融公庫の「新創業融資制度」なら、申し込み条件に限りはありますが開業後の資金調達が可能です。
- 新たに事業を始める、または事業開始後税務申告を2期終えていないこと
- 創業資金総額の10分の1以上の自己資金があること
- 無担保無保証人の融資制度。経営者個人には責任が及ばない
原則、創業融資は開業時にしか借りられないため、タイミングを逃すと融資を受けられません。しかし、もし逃した場合でも税務申告が開業から2期以内なら「新創業融資制度」が利用できます。
美容室開業時に融資を受けるまでの流れ(日本政策金融公庫の場合)

日本政策金融公庫から融資を受けるには以下の流れになります。
- 美容室を開業する地域を管轄する支店へ問い合わせる
- 必要書類の提出
- 担当者と面談
- 現地調査など審査期間
- 融資決定
- 契約書返送、着金
おもな必要書類は以下の通りです。
- 借入申込書
- 創業計画書
- 通帳
- 運転免許証
- 支払い明細書
- 不動産の賃貸借契約書
- 営業許可や資格免許など

美容室開業の融資面談で聞かれることは?

ここでは、美容室開業の融資面談で審査担当者は「どのようなことを聞きたいのか」または「何を聞かれるのか」を紹介するので参考にしてください。
債務者が返済できるかを知りたい
融資を行う側がもっとも知りたいことは、以下の2点です。
- 債務者へ融資を行った後、延滞せずに返済してくれるか
- 創業計画書の内容は無理のないものか
融資を行う側がもっとも避けたいことは、契約した期日に返済が行われず滞納が発生することです。審査担当者は面談で、債務者が信頼できる人間なのかを知りたがっています。
また、創業計画書の内容も重要です。計画書の内容に無理があれば、開業後計画どおりに売上や利益を得られないケースもあります。そのため、返済が滞るなど融資を行う側にとってリスクにつながるため、創業計画書の内容も重要です。
提出した創業計画書について面談される
融資面談は創業計画書の内容に沿って進むことが一般的です。以下のような質問をされるケースがあるので参考にしてください。
- 創業の動機
あいまいな答えではなく、具体的な開業理由を挙げられるように準備しておきましょう。 - 経営者の略歴
美容室業界でのキャリアや経験などを質問されます。キャリアを活かしどのような美容室を開業したいのかなど、具体的に答えられるようにしておきましょう。 - 取扱商品・サービス
開業後の美容室でどのようなサービスを提供するのか、創業計画書の内容に沿った説明が必要です。将来性をアピールしましょう。 - 信用情報
個人の借り入れ状況などは、包み隠さず申告しておきましょう。隠しても照会できるので、嘘は信頼を失うだけです。また、滞納などがある場合、審査通過は厳しくなります。 - 「必要な資金と調達方法」項目について
日本政策金融公庫の創業計画書には「必要な資金と調達方法」という項目があります。必要な資金を設備と運転資金別で記入し、調達方法の内訳金額を記入する項目です。項目の漏れを指摘されることは、精度を疑われる要因になるので注意しましょう。 - 「事業の見通し」項目について
日本政策金融公庫の創業計画書には「事業の見通し」という項目があります。月平均の見通しとして売上高、売上原価、経費を記入する項目です。この数字の根拠などを質問されるので、しっかり答えられるように準備しましょう。
美容室開業の前に! 融資を通りやすくする3つのポイントを押さえておく

融資を受けやすくするためには、開業前に以下3つのポイントを押さえておきましょう。
- 勤務実績を積み重ねる
- 延滞せず支払う
- 自己資金を貯めておく
勤務実績を積み重ねる
前述したように、審査では開業する業界でのキャリアがどの程度あるのかを必ず確認されます。美容室業界では当然技術が大切ですが、それ以外の経験も積み重ねておきましょう。
例えば、店長やマネージャーなどの管理職経験や、美容室経営のノウハウがあるのかも融資を行う側にとっては返済能力があるかどうかの重要な判断材料です。
延滞せず支払う
融資を受ける際、必ず個人の信用情報を確認されます。例えば、日本政策金融公庫は政府が出資しているため、税金や公共料金の滞納があれば審査を通過するのは困難です。
また、各種ローンなどの借り入れについて、返済や滞納、債務整理の履歴など、信用情報に問題がある場合も融資は受けられない可能性が高くなります。開業資金の融資を検討しているなら、借り入れ金は滞納せずに支払いましょう。
自己資金を貯めておく
融資審査は、自己資金がどれくらいあるのかも判断材料です。例えば、日本政策金融公庫の新創業融資制度では、前述したように融資額の10分の1以上の自己資金を条件にしている制度もあります。
民間の金融機関から融資を受ける際にも、口座残高など自己資金を確認されるのが一般的で、融資額の3分の1以上の自己資金が必要ともいわれているのです。
自己資金が少なく融資額を増やして開業した結果、月々の返済額が大きくなるのはリスクになります。開業後の資金繰りに困らないためにも、できるだけ自己資金を貯めておきましょう。

美容室は融資を受けてゆとりのある開業を!
美容室開業直後に計画どおりの売上を達成することは簡単ではありません。そのため新規開業時は融資を受けるなどして、3カ月程度は運転資金や生活費に困らない程度の資金確保が必要です。
当然自己資金の準備も重要です。自己資金が多ければ融資額を減らせるだけではなく、融資審査へ好影響をもたらします。融資を受けて、無理のないゆとりある美容室の開業を目指しましょう。



