美容室開業資金の借り入れをするなら、まずは日本政策金融公庫からの融資を検討する人がほとんどではないでしょうか。日本政策金融公庫は低金利で、条件によって担保や保証人が必要ないなど、融資を受ける側にメリットが多い政府の金融機関と認識されています。
申請に必要な書類「創業計画書」は、審査面談時などで重要な役割を果たします。そこでこの記事では、創業計画書とは何か紹介したうえで、具体的な書き方などを解説します。
美容室開業に必要な創業計画書とは

美容室開業に必要な「創業計画書」とは、日本政策金融公庫から融資を受ける際の審査基準となる書類です。ここでは、創業計画書の概要と、審査で重視されるポイントを解説します。
日本政策金融公庫の創業融資を受けるために必要な書類
美容室開業を決めて日本政策金融公庫から融資を受ける際には、申し込み条件を確認したうえで、さまざまな書類を準備します。その中のひとつで、もっとも重要な書類が創業計画書です。
審査内容の詳細は公表されていませんが、どのような事業を行うのか、資金を何に使うのか、滞りなく返済できる能力はあるのか、などを融資の判断材料としています。そのため、創業計画書の内容が審査で重視されるのです。
創業計画書は日本政策金融公庫の書式があり、項目に沿って記述していくだけですが、その内容が重要です。次からは、創業計画書で重視される審査ポイントを解説していきます。なお、書式は以下からダウンロードできます。
創業計画書で特に重要な審査ポイント

創業計画書は、融資する日本政策金融公庫が債務者に返済能力があることを確認するものです。借りる側は「返済できる根拠」を示して審査が通るように、以下のポイントを押さえておきましょう。
- なぜ創業するのか
- 創業者の実績、強み
- 資金がいくら必要で、どのように調達するつもりか
- 開業後の経営戦略について
- 収益の肝となる見込み客はどのくらいいるか
次から詳しく説明します。
なぜ創業するのか
美容室開業の本気度や、どれほど準備に取り組んできたのかなどをアピールします。具体的には、美容室を開業する理由や目的や、なぜ今のタイミングなのかなどです。
漠然と「なんとなくやってみたい」では、貸す側は審査のしようがありません。具体的な内容が伝わるように、具体的な数字なども交えて伝えるべきです。
例えば、「自己資金が◯◯◯万円貯まって目標金額に達した」「固定客が◯◯人ついたので独立を決めた」「〇〇歳での独立を目指して準備してきた」などの意思を書いておくと、開業のタイミングなどが伝わります。
【ポイント】
- 「自己資金を目標金額貯めた」
→開業のための準備を入念に計画していた意思をアピール - 「固定客が多いなど」
→開業してもやっていけるレベルの技術や自信をアピール - 「年齢を目安に準備してきた」
→熱心な取り組みの姿勢をアピール
創業者の実績、強み
創業者である本人の実績や強みも、念入りに訴求しましょう。
とは言っても開業前ですから、当然業績が存在しません。その代わりに勤務時代のキャリアや実績、強みなどが重要な審査ポイントになります。
実績や強みがある分だけ、集客力のある美容師である証拠になります。集客力があれば売上を上げやすい環境をつくれるので、返済能力がある目安になるのです。
【ポイント】
- 美容師としてのキャリア
- スキルや強み
- 役職経験や功績
- 免許や資格
上記などが、集客力があり返済能力がある創業者としてのアピールになります。
資金がいくら必要で、どのように調達するつもりか
日本政策金融公庫の創業計画書では「必要な資金と調達方法」を伝える項目があります。必要な資金を設備と運転資金別で記入し、調達方法の内訳金額を記入します。
ここでは、おおよその金額を予想して伝えてはいけません。設備や運転資金の金額がわかる資料などで、根拠を示しわかりやすくすることが大切です。例えば見積書なら、見積先の業者名も明らかにできれば信憑性も高まります。
調達方法の項目で重要な点は自己資金です。自己資金を準備したことは開業への真剣度合いをアピールできます。
ちなみに、日本政策金融公庫の「新創業融資制度」では、融資額の10分の1以上の自己資金が融資条件です。
【ポイント】
- 必要な資金は根拠を示す
- 調達方法では自己資金額が重要
- 制度によっては一定の自己資金が融資条件に入っている
また項目の記入漏れは、精度を疑われる要因になるので注意しましょう。
開業後の経営戦略について
美容室開業後の集客はどのように行い、売上は具体的に何をどの程度見込んでいるのか、近隣の競合店舗とどのように競争し差別化していくのかなどを、具体的に伝える方法も審査ポイントです。
例えば、地域に応じたターゲット層の選定および価格の設定、店舗の周知の方法、来店数や客単価はどれくらいなのか、オプション売上の見込みはあるのか、など開業前にしっかりとした戦略があるのかも判断されます。
収益の肝となる見込み客はどのくらいいるか
見込み客はどれくらいなのか、具体的に伝えることもポイントです。お得意さまなどの固定客の多さはアピールになります。しかし開業する場所によっては、今までの固定客すべてが新規開業店へ来店できるとは限りません。
そこで店舗の周辺環境による、立地のよさ、人通りの多さに加え、自身のスキルの高さなどを根拠に、新規顧客を見込み客に含めてアピールする方法もあります。周辺地域の人口を市町村の統計データで調べるなど、数字を挙げて信憑性を持たせることもポイントです。
しかし、審査通過を狙うあまり、あからさまに現実離れした内容を伝えては、見通しを誤る人物だと誤解される可能性があるため注意しましょう。
創業計画書の書き方

日本政策金融公庫書式の創業計画書には、以下の項目があります。
- 創業の動機
- 経営者の略歴等
- 取扱商品 サービス
- 取引先 取引関係
- 必要な資金と調達方法
- 事業の見通し
ここでは、各項目の書き方について紹介します。
「創業の動機」は熱意や計画性をアピールする
創業計画書の最初の項目「創業の動機」では、美容室を開業する熱意や計画性をアピールしましょう。具体的には、開業準備の取り組み、開業理由や目的、タイミングなどです。箇条書きで書くよりも文章で書くほうがアピールできます。
例えば
- 30歳までに独立することを目指し◯◯年間美容室で勤務し経験を積みました
- 店長も経験し店の管理運営に自信がもてるようになりました
- 自己資金が目標としていた◯◯◯万円貯まったので開業を決意しました
- 固定客が◯◯人ついたので独立のタイミングだと判断しました
など、具体的な理由でアピールしましょう。
「経営者の略歴」は客観的に判断できる”数値”を記載する
「経営者の履歴等」は、履歴書のような形式の項目です。年月を書いて何をしていたのかを記入します。補足で「略歴については、勤務先名だけではなく、担当業務や役職、身につけた技能等についても記載してください」と記載があるので従いましょう。
ポイントは客観的に判断できる数値を入れることです。
例えば、「店長として5年」「エリアマネージャーとして2年」など、どのような経験をどの程度経験したことがあるかわかるように記載すると具体性が増すとともに、審査担当者がより判断しやすくなります。
また、ほかにも「過去の事業経験」「取得資格」「知的財産」の有無をたずねる項目もあるので、何かあるなら追加します。資格証は提出するので美容師免許のコピーは必要です。
「取扱商品・サービス」は将来性が有望であることを説明する
「取扱商品・サービス」では、「セールスポイント」「販売ターゲット・販売戦略」「競合・市場など企業を取り巻く状況」の項目があります。
内容は、1~3まで記載欄があるので、それぞれ、カット、パーマ、カラーなど簡潔で問題ありません。平均客単価をその隣に記載すると伝わりやすくなります。もしメニュー表を作成しているなら提出するのもよいでしょう。
ほかの項目については、以下を確認してください。
- セールスポイント
自分の美容室が顧客に選ばれる強みや根拠など、具体的理由を記載します。 - 販売ターゲット 販売戦略
どのような層の顧客を見込んでいるのか、年齢層や属性などを記載します。さらに、その層をターゲットとした理由なども必要です。 - 競合 市場など企業を取り巻く状況
開業する店舗の周辺状況を調べて記載します。美容室のほか、理容室も対象にしましょう。具体的に、自分の店舗はどのようなサービスで周辺店舗との差別化をはかるのかなどを説明できれば審査ポイントも良くなります。
「取扱商品・サービス」の記載欄は少ないので、資料などを別途添付し、提出する形でも問題ありません。
「取引先・取引関係」はロジカルな根拠で見込み客の多さを訴求する。仕入れ先は必ず書き込む
「取引先・取引関係等」には、「販売先」「仕入先」「外注先」の項目があります。
- 販売先
顧客を意味する項目です。来店が見込める固定客のほか、立地により設定したターゲット層の新規顧客などの割合も記載します。 - 仕入先
定期的に購入する備品などの仕入先の記載です。仕入先が決まっていなくても、予定している業者名を書いておきます。融資を申し込んでいるのに仕入先が決まっていない状況は、審査担当者に悪い印象を与えかねません。決定していなくても、予定の仕入先を記入しておきましょう。 - 外注先
長期間ほかの美容室から人員を借りて運営するなら話は別ですが、通常運営なら空欄で問題ありません。
「必要な資金と調達方法」は内訳まで綿密に記入する
「必要な資金」欄と「調達方法」欄について説明します。
- 必要な資金
設備資金と運転資金にわけて記載します。おもな設備資金は、不動産取得費にかかった敷金や保証金、内装や外装工事や空調や給排水の設備工事費用、美容室に必要な設備費用などです。設備資金は業者見積を一緒に提出します。一方、運転資金は仕入れや消耗品費、広告費などです。 - 調達方法
自己資金、親族からの借り入れ、日本政策金融公庫からの借り入れ、ほかの金融機関からの借り入れ、各項目それぞれの内訳などを記入します。
ポイントは、必要な資金と調達方法の金額欄を同じ金額にすることです。また、前述したように、自己資金が多いと担当者へ良い印象を与えることができます。
「事業の見通し」で開業後の売上見込み額をアピールする
「事業見通し」は月平均の、売上高、売上原価、経費の収支をシミュレーションして、利益の見通しを記入する項目です。単純に「売上高 − 売上原価 − 経費=利益」で算出できます。
原価や経費はある程度把握できますが、売上高は予測するしかないため、どれだけ精度の高い見通しを立てられているかがポイントになります。
【売上高の出し方】
一般的な2つの計算方法です。
- 客単価 × 座席数 × 回転数 × 月の営業日数
- 開業月の目標売上 ÷ 客単価
また、これら数字の根拠も必要になるので、以下などの資料を必要に応じて作成しましょう。
- 店舗前の人通り
- 店舗地域の人口統計データやターゲット層の割合
- 競合店舗の数など
美容室開業時融資には創業計画書が重要!
審査ポイントを理解しアピールしよう
低金利、無担保、無保証などメリットがありますが、審査ハードルは高いといわれている日本政策金融公庫。創業計画書の審査ポイントを理解したうえで作成し、融資を受けられる可能性を広げましょう。
