吸血鬼が美しい人間の血を好むのは昔から鉄板ですが、今回ご紹介する短編集の表題作『美少年をさ・が・せ！』もそんな系統です。美少年の貴己は、吸血鬼のお嬢様・沙良と一緒に暮らしながら雑用もこなす日々。彼女から血を吸われるのを回避するため、自分の身代わりの美少年探しに余念がありません。そんな時、母親を吸血鬼に殺されたと言われているイケメンの存在を知り……？

創作の中では吸血鬼は男性であることが多いですが、本作は女性キャラが吸血鬼。同居している貴己は記憶喪失の少年として描かれています。彼がどうして記憶喪失になったのか、徐々に明かされていくところが見どころのひとつです。

ほかにも古い村と家庭の習慣に振り回される男女を描いた『風を渡るキリン─時の祭祀─』、就職試験からまさかのトラブルに巻き込まれるSF『緑のキャベツを君に』、亡くなった人が家に還ってくる姿が見える『ホーム・スィート・ホーム』の4編が収録され、どれも「少し不思議」な要素が入っています。

個人的には、決まった人間にだけある能力が使えるという設定を生かした『風を渡るキリン─時の祭祀─』が好みです。
とある名家の長男が入れ替わっていて、それを知っているのは3人しかいないこと、実の母親でさえそれを知らないことなど、限定された状況下で起こる事件と対決する主人公にワクワクします。

全エピソードを通して家族にまつわる内容がテーマでもあり、吸血鬼でも名家でもSFでも幽霊でも、家族とふれあう部分が必ずあります。きっとそれは本作の根底に流れている大きなメッセージなのでしょう。
一人は寂しいですよね。たとえ血はつながっていなくても、たとえ仲が良くなくても、やはり家族は何にも代えがたい大切なものだと実感させられます。

古い少女漫画的なタッチの本作ではありますが、基本的にキレイな絵なので読みやすいですよ。それにイケメン＆美少女も眼福。特にカワイイ系男子に注目です。
短編4本なのでシンプルな物語が多いですが、描ける範囲内で深く掘り下げられています。やはり表題作の『美少年をさ・が・せ！』が一番読みごたえがあるでしょう。

タイトルから内容をはかれない部分はありますが、読後にはその意味がわかるようになっています。特に『緑のキャベツを君に』なんて、本当にわからないですよね。
そんな部分も楽しみながら読んでいただければと思います！