美容室を独立開業するさい、工事費・設備費など初期費用は意識していても、運転資金のことは意外に忘れがちではないでしょうか。運転資金が十分でないと月々にかかる費用を支払えずに、あっという間に経営不振に陥ってしまうため、事前に必要額を計算して確保することが重要です。
今回の記事は運転資金の相場やおもな内訳、開業資金の調達方法などを紹介していきます。
運転資金の平均は150万円ほど
「運転資金」とは店舗の運営を続けていくために必要な資金のことです。2014年の日本政策金融公庫の調査によれば、美容室経営者が創業時に用意した運転資金の平均は約150万円というデータがあります。
運転資金は、「固定費」と「変動費」に分けられます。固定費は、家賃や人件費など毎月必ず支払うことが決まっている費用です。変動費は、施術に使用するカラー剤やシャンプー、トリートメントなど、状況によって変わる材料費・消耗品費のことをいいます。
先にあげた調査では平均150万円程度だと言われていますが、運転資金は当面の生命線ですから多く確保しておくに越したことはありません。特に人気のエリアや好条件の物件を選んだ場合、相場より固定費を多く支払わなければいけなくなるため注意が必要です。
【固定費】
・家賃
・水道光熱費
・人件費
・宣伝広告費
【変動費】
・材料
・消耗品
・外注費
ベストは固定費の6ヶ月分以上
開業して固定客がつき、売上が軌道に乗るまでには早くても半年かかると言われています。日本政策金融公庫の2013年の特別調査によると、軌道に乗り始めたと実感できたのは開業から1年~2年と回答した経営者が全体の33.8%と最も多く、その中で1年以内に収入が安定し始めたと回答したのは、3割にとどまっています。
つまり開業から半年~1年目は、売上だけでは資金繰りが難しいと思っていた方がいいということです。赤字がしばらく続くことも考えておく必要があるでしょう。その期間を乗り越えるためには、事前に運転資金を多く用意するほかありません。
準備したい運転資金は、固定費の3~6カ月分が目安になります。運転資金の内訳をしっかりと把握し、固定費を算出してみてください。
運転資金の内訳
運転資金の内訳について、もう少し詳しく見ていきましょう。代表的な費用として、家賃・水道光熱費、人件費、広告費などの「固定費」があげられます。経営上、毎月必要な費用となりますので、売上が軌道に乗るまでにどれくらいかかるのか、しっかりとシミュレーションしてください。
家賃・水道光熱費
自宅開業ではなくテナントを借りて開業する場合、固定費で外せないのが家賃です。好立地・好条件の物件なら集客が見込めますが、その分家賃も高額になります。いくら売上があっても家賃に売上の大半をもっていかれるようなら、経営を圧迫する原因になってしまいます。
水道光熱費、そして電気代は自宅開業かテナントかに関わらず、美容室に必須の固定費です。髪を洗う・乾かす、空調管理、温度調整などには一般家庭より多額の費用が必要です。
一般的に、理想の家賃は売上に対して10%以下、水道光熱費は3%以下が目安とされています。この数字を頭において固定費のシミュレーションを行い、数字が目安を大きく上回るようなら早めに対策を考えましょう。
人件費
人を雇っている場合は毎月人件費が必ず発生し、家賃以上に高い固定費の割合を占めることもあります。人件費の支払いが遅れると従業員の生活に影響が出ますし、信頼も失ってしまうので絶対に避けなければいけません。
人材が不足している美容業界において、せっかく仕事を覚えてくれた従業員に辞められることはかなりの痛手です。かと言って、人件費をかけすぎるとお店の経営に影響があるので、適切な人件費はいくらなのかを計算しましょう。
人件費は、単純に売上から算出するのではなく、利益から算出するのがポイントです。目安としては、利益に対して50~60%が平均的で、60%を超えると美容室の経営に負担が生じると言われています。
広告費
売上を軌道に乗せるには集客が鍵になってきます。特に開業前からの宣伝は必須でしょう。そのため広告費は事前にしっかりと予算に組み込んでおかなければいけない費用なのです。
2012年度の日本政策金融公庫の調査によると、集客のためにおこなっている宣伝活動はDMやハガキが74.3%、WEBの活用が72.5%、チラシが40.3%、フリーペーパーへの掲載の37.9%となっています。
DM・ハガキ、WEB活用が最も多く、それに対して効果的であったかというアンケートでは、DM・ハガキが77.6%とWEBが54.3%、チラシが59.1%、フリーペーパーへの掲載が68.4%という結果になりました。少し古いデータのため、現在はWEBの割合が当時より増しているかもしれませんが、参考にはなると思います。
SNSやブログ運営、ポータルサイト掲載などのWEB宣伝は低コストで高い集客力が見込めますが、効果が出るまで時間がかかる傾向もあります。WEB宣伝と従来型のチラシ・フリーペーパーとをうまく併用していくのが、良い方法と言えるでしょう。
必要であれば開業時に融資を受ける
美容室の開業時には、諸費用や運転資金を含めて数百万~1,000万円とも言われる金額が必要になりますが、なかなか全額を貯蓄で賄うことは難しいでしょう。そこで有力な選択肢となるのが、融資を受けるという方法です。
融資を受けるにはいくつかの審査を通過する必要があります。具体的には、美容師としての実務経験や自己資金がいくらあるか、実現可能な事業計画を用意できているかなどが審査の対象となります。
実務経験については、勤務年数が定められているわけではありませんが、美容師としての技術力や経営者としての最低限の知識を身につけておく必要があります。
自己資金は、経営者としての計画性や創業意欲をわかりやすく判断できるものとして審査対象にされています。多額のお金を借りるためには、まず信用してもらえるような行動を日頃から積み重ねることが大切なのです。
開業時の資金調達先
融資を受けるのにおすすめの機関は、「日本政策金融公庫」や「自治体の中小企業融資」です。「日本政策金融公庫」で美容室の開業に利用できる制度は3つあります。
・女性、若者/シニア起業家支援資金
・新規開業資金
・生活衛生新企業育成資金
それぞれの制度によって上限額や保証人の要件が異なり、生活衛生審企業育成資金を利用するには生活衛生同業組合に加入しなければならないなど条件がありますが、「新創業融資制度」では無担保で保証人も必要なく借りることができます。
「自治体の中小企業融資」は、都道府県や市町村などの自治体が民間の金融機関や保証協会と連携して融資をする制度のことです。この制度は、保証協会に保証料を支払うことで保証人の役割をしてくれるため、融資を受けやすいのが特徴です。自治体によって名称や融資条件が異なるので、各自治体に確認するようにしましょう。
まとめ
美容室開業時には多額の資金が必要ですので、融資を受けられるチャンスがあれば最大限に活かしていきましょう。そして美容室を継続的に運営していくには、十分な運転資金と先のことを考えた事業計画が重要になってきます。特に固定費は、よく考えておかないと経営を圧迫してしまう恐れがあるため、シミュレーションをして慎重に決めるようにしましょう。
資金が計画通りに調達できなかった場合を想定しておいて、いくつか対策法を考えておくといいかもしれません。せっかく開業の夢が叶うのですから、スムーズに融資が受けられるように、自分に経営者として必要なスキル・知識が身についているか、自己資金は十分なのかを見極めることも大切です。